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夏祭り.その4

 スズと花火を見るためにお祭り会場に行こうと家を出たときには、夕日は殆ど沈んでしまい、山の向こうでかすかにオレンジ色に染まった空が見える程度だった。
 私の家は海を一望できる高台に位置している。
 見渡す景色がいいので、とても気に入っている。
 会場に行く途中、ふと、海を眺めた。
 昼間の活気溢れる漁港の様子とは打って変わり、水平線一杯に真っ暗闇が続き非常に静かだ。

 夜の海は、少し怖く感じる。

 そんな静寂を吹き飛ばすように、轟音と共に空が一瞬明るくなる。
「あっれー!? もう花火始まっちゃってる?」
 私はとっさにスズに訊いた。
「え…。そんなはずはないけど…。」
 スズはしきりに時計を覗き込む。
 私は空を見回したけど、花火は見えない。
「一発だけで終わり……じゃないよね?」
 いつまでたっても2発目、3発目が上がらない。
 ……おかしい。
 すると、海の向こうに炎と煙が上がっているのが視界に入ってきた。
「ね、ねぇ。スズ、スズ!! 見て! 見てアレ!」
 祭りのパンフレットの予定時刻と、時計を見比べて唸っていたスズが、私の声で顔を上げ、海の方を見た。
「うそ…。なにあれ……。」
 海上に火の粉が舞い、「何か」が炎上している。
 二人揃って、その光景に見とれてしまった。
「ねぇ、行ってみよう…。見にいこうよ。」
 私の根っからの野次馬根性がそう言わせざるを得なかった。
 私たちは大体同じような思考回路だったので、スズも乗り気に、
「いいね。行こ、行こ!」
 と、少し興奮気味に答えた。
 その時、祭りだの花火だのは、頭の片隅にもなかった。


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by byo_teng | 2005-05-16 00:48 | ss | Comments(0)

夏祭り.その3

 スズと私は幼少の頃からの幼馴染だ。
 今までは、何をするにも一緒。

 小学校も、中学校同じ。
 今の時代、大半の人が小学校3~4年からポケモン関連の科目を取り、フィールドワークで野山を駆け巡るのがごく当たり前です。
 その間は、その他学業の授業免除ってのも魅力の一つなんですよ。
 けど、当時私とスズはちょっとしたことがあり生き物を扱うことに自信を無くし、抵抗があったので…普通科の道に進みました。
 そして、高校も同じところを受けて二人とも合格。
 あのときは二人して大喜びしたのを覚えてる。
 まぁ、一般高校を受ける人自体少ないんだけどね。
 …でも、去年から…、大学からは別々になってしまった。
 そりゃあ、いつまでも一緒にって訳にはいかないとは分かってたけれど…。

 私の家は代々酒造業を営んでいます。
 とはいっても、年々顧客は減り行く一方で。
 親が言うには、私には家業を継がず、一般企業に勤めて欲しいと。
 私も更々継ぐ気は無かったし、少しホッとしている面もある。
 でも、ずっと続いていた家業が自分の代で終わってしまうのは少し寂しいと感じていた。
 スズは、というとファッションデザイナー関係に興味があるらしく専門学校へ入学。


 そして数日前、今年の夏が終わる頃に、スズは外国へ留学してしまうということを聞いた。
 八月の終わりには準備やらなにやらで会える機会が殆ど無くなるらしい……。
 こうして一緒に夏祭りを過ごすのも、最後となる…。


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by byo_teng | 2005-05-14 04:36 | ss | Comments(0)

夏祭り.その2

 私が住んでいるこの町には一家代々受け継がれている花火職人の家がある。
 家の門にどでかく装飾された、九尾の狐をあしらった家紋が目を惹くとても大きい家だ。
 住んでみたいと思うほど、ほんと立派だ。
 この家紋、キュウコンという炎タイプのポケモンをモデルにしているそうだけど…、この辺ではまず見かけない。
 どこからか移り住んできた家系なのかな……? 花火界では結構有名らしいけど。
 しかし、火気厳禁な仕事場なのに、なんで炎系のキュウコンなんだろ…。

 ともかく、そんな名家の花火が拝めるのが、今日の夏祭り最大のメインイベントである花火大会だ。
 この花火のために、午前中に出店などではしゃぎ回った疲れを取るため、家の縁側で休んでいたら…いつのまにか寝ちゃってた…。


「っだーぁ! 寝過ごした!? 今何時?」
 私は慌てて上半身を起こしながら時計を探した。
 頭を動かすたび、癖毛で外ハネの前髪が揺れる。
「ゆき、落ち着いて。はいはい、深呼吸ー。ふーっ、はぁー。」
 私の慌てっぷりがひどく滑稽に見えたのか、軽く茶化しながら私をなだめる。
「大丈夫。大丈夫、時間にはまだ間に合うよ。ほら、仕度して。一緒に行こ?」
 訊かれなくとも答えは決まってるのに。
 浴衣の着崩れを直しながら、ウンと頷き、と返事をした。
「呼びに起こしに来てくれて、ありがと。」
 と、付け加えて。
 するとスズは、すこし照れた表情を見せた。


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by byo_teng | 2005-05-11 21:23 | ss | Comments(0)

夏祭り.その1

(…き……ゆき………て……)
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 ……だれだろう…声がする……。

(…ゆき……起きて……きってば…)

 ……? ゆき…? 私の名前…呼ばれてるみたい…。
 聞き覚えのある声が降りかかるように聞こえてくる。

 親友で幼馴染の「スズ」の声だ。
 …私…寝ちゃったんだ…。
「ねぇ、ゆきってばー、起きてって。聞こえてるんでしょ? 花火大会始まっちゃうよー?」 
 …! 花火! そう、今日は私たちの町の夏祭りだ。


 この町の夏祭りは年に二回、七月の初めと八月の最後の週に行われる。
 今は七月の初め。
 七夕と時期を合わせたこの祭りの間は町中が短冊だらけの笹の葉で埋め尽くされる。

 私が住んでる町は周りを緑の深い山に囲まれた東北地方のとある港町。
 多少なりと閉鎖的なところもあったりするけど、それなりに栄えた町です。
 冬には深々と雪が積もり、一面銀世界でものすごく綺麗。
 夏には太陽がこれでもかと照りつけ、海風が涼しく気持ちいい。
 私は、この町をかなり気に入ってる。


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by byo_teng | 2005-05-10 02:34 | ss | Comments(2)

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夏祭り
1.
2.
3.
4.
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by byo_teng | 2005-05-10 02:29 | ss | Comments(0)